からあげに羽が生えて、ザンビアで大統領になった話

からあげは不自由な身を携えて、肉屋の店先で身動きもとれず、ただ売れるのを待っていた。
からあげは揚げられた瞬間、確かに意識を持ち、そして、その意識は瞬く間に成熟し、すぐに、一度でいいから、海外旅行をしたい、と夢見だした。
からあげは、「僕にも羽があれば、どこか遠くに行けるのではないか」と考えた。そこで、懸命に羽が生えることを願った。からあげはそれほど日持ちする食べ物でもないから、早くしないと誰かに買われて、食卓にのぼってしまう。食卓にのぼるよりも、ザンビアに行きたいよう、とからあげはそう強く思った。
するとどうだろう。
からあげの背中(というかなんというか、とにかくあまり見えない部分)から、立派な羽根が生えたのである。
からあげは大喜びし、とにかく必死でその羽を動かして、えっちらおっちら、肉屋のおばさんにみつからないようにしながら、なんとか店先を抜け出した。
からあげが必死で羽を動かすたびに、羽はますますおおきくなってゆく。
電柱から伸びる電線の上で一休みするころには、からあげの羽は、すずめの翼くらいに大きくなっていた。
「ようし、いいぞ」とからあげはまた飛び立って、鳥たちの好奇心にさらされながら、猛然とひとつの方向に向かって、翼を動かし続けた。
2ヶ月と14日間、からあげは不眠不休で飛び続け、ついにザンビアに到着した。
「ここがザンビアか、ずいぶん暑いところだな」とからあげは思った。
からあげは、あたりを見渡すと、ひとりの立派な男がいるのを見つけた。
「おうい」からあげは、今ではトンビのように大きくなった翼を見せようと、その男に近づいていった。そう、からあげはここに来るまでに、随分と自分の翼に自信がついて、得意げだったのだ。
するとその男は振り返り、ザンビアの言葉でこう言った。「僕は、もう大統領でいることに疲れちゃったんだよ。よかったら、君のその立派な翼、国民に見せてあげて、それで、みんながいいよ、って言うのなら、ぜひ僕の代わりに大統領になってくれないか」
そう、その男は、ザンビアの大統領だったのだ。
「そりゃあいい、でも、僕の翼と、政治的手腕と、その二つが相関関係にあるとはとても思えないのだけど、それでもいいのかい」とからあげは大統領に聞いた。
「いいんだ、とにかく、僕は疲れてるんだから」と大統領は言った。
「それなら」とからあげは言って、次の日、国会の中継に行って、からあげは大統領の手のひらからそっと前に出て、電波に乗せてこう言った。
「僕は今から、この国の大統領さんを、休ませてあげようと思う。その間、この僕が、大統領の仕事を代わりにやろうと思うんだけど、いいかな」
国は大混乱に陥った。当然、そんなことはおそらく前代未聞だったからだし、からあげの政治的手腕を本能的に疑う人の方が圧倒的に多かったからだ。
その混乱の声を収めようと、今度はザンビアの人間の大統領が、前に出てきて言った。
「みなさま、聞いてください。このからあげは、そこらのからあげとはわけが違うのです。はるばる日本国から、自由を謳歌し、なんのしがらみも、思惑も、私欲もないまま、我が国、ザンビアに飛んできてくれたのです。その無償の熱意、完全なる純粋なエネルギーの前に、私どもが理性を尽くした秩序を作る浅知恵が本当にかなうのでしょうか。私は、このからあげの無垢さと力強さのみに、国の方針を託したいと思うのです。もう、八方塞がりで不毛な、意地の悪い思惑のぶつけあいは不要だ。このからあげの、前を向く嬉しさと、喜びと、ほとばしるような旅への希求を、ぜひこの国のゆくすえをよいものへと変える力にしてもらおうではありませんか!」
国民は言葉を失った。
何にしてもからあげが大統領になる、ということがにわかには信じがたかったからだ。
しかし、大統領は、引き下がらず、ただ一心に、中継をしているカメラをみつめ、自らの疲弊と、政権交代への希望を心にいっぱいにためて、その気持ちをレンズの向こうに届けようとした。
からあげは言った。
「みなさん、僕は、なんだかよくわかりませんが、やっぱり、大統領さんも疲れているようですから、ひとつ僕に任せてみてくれてもいいんじゃないかと思うんです。僕、がんばってみますから。」
国民はもう、このからあげに全てを任せるしかなかった。
からあげが大統領であって、僕たちは困るのだろうか。
きっと困るかもしれない。
しかしそれは、つまりもし困ることがあったとしても、その政治家がからあげであるから困るのではなく、政治家としてのよき役割を果たせないから不適任だ、というそれだけのことなのだ。
つまり、からあげに大統領を務める意思があるのならば、そのからあげに大統領を任せることは、人間の誰かに大統領を任せることと、それほどの差があるわけではないのだ。
そのことを思うと、この、ただ海を越えたくてこの国、ザンビアに来たからあげ、という奇遇な出会いに、大きくかけてみることも、悪くないような気がしたのだ。
そういうわけで、翼を生やし、日本からはるばるザンビアに飛んできたからあげは、ザンビアの大統領となったのだった。

からあげが大統領に就任して、まる1年がたった。ザンビアはアフリカで一番平和な国だ、と言われている。それがからあげの手腕によるものなのか、それともそうでないのかは、実を言えば誰にもわからない。結局のところからあげはからあげで、ただ飛びたかったから飛んできただけだし、国をよくしようと思って飛んできたわけではないのだ。
からあげが大統領をやめたとしても、明日も変わらず人々と経済は何かの形で動き続ける。電気がつけられ、また消される。そしてザンビアの荒野では、動物たちが草を今日も食むのだ。